感染経路から考えるCOVID−19の有効な対策とは?

感染経路から考えるCOVID−19の有効な対策とは?

活動記録及び雑感 参照数: 485

2019年に中国の武漢で最初の症例が報告されてから現在に至るまで流行が続いている新型コロナウイルスCOVID-19。2022年10月の時点で6.2億人以上の感染者と650万人を超える死者を出すパンデミックを引き起こしています。

現在は少しずつ重症化する人も減ってきており、少しずつ私たちの生活も元に戻りつつあります。しかしCOVID-19の重症化例が完全になくなったわけではなく、さらなくウイルスの変異の可能性も残されていることから、感染対策が全く必要ないというわけではありません。

むしろwithコロナの時代に入り、経済活動を活発化させていくためには、日常生活の中でできる感染対策がより重要となっていきます。

さらにCOVID-19の前にはSARSやMARSなど新規のウイルスによる感染症があったように、今後も新しい感染症が出現することも考えられます。今や地球の裏側からも人の行き来のある時代ですので、今後新規のウイルスのパンデミックが起こり、再び我が国で新規の感染症が流行することも十分に考えられます。私たち一人ひとりがウイルスに関する知識を持っていることが重要な時代なのです。

感染対策というと「とにかく人との接触を避ける」というイメージがありますが、具体的に何をしたらいいのか完全に理解できていない人も多いかと思われます。

COVID-19の感染対策を理解するためにはCOVID-19を引き起こすウイルスであるSARS-CoV2がどのようにして人の体内に侵入して、感染を引き起こすのか(感染経路と言います)を理解する必要があります。

今回はSARS-CoV2の感染経路について開設しそれぞれに応じた感染対策について見ていきます。

ウイルスの感染経路は?

SARS-CoV2をはじめとするウイルスが体内に入る経路には以下のようなものがあります。

1エアロゾル感染

空気中に浮遊するウイルスをふくむエアロゾルを吸い込むことで起こる感染です。エアロゾルとは空気中に浮遊する目には見えないほど小さい液体や固体の粒子と周囲の気体の混合体のことを指します。くしゃみでなどで目に見える飛沫(唾液などのしぶき)が飛び散った時に、さらに小さいエアロゾルも飛んでいます。飛沫はある程度大きな液体の塊なので空中に浮遊せず落ちていきますがエアロゾルは非常に小さくて軽いため空気中を漂います。空間中にウイルスをふくむエアロゾルが漂っていてそれを吸うことで感染が起こります。

                          

2飛沫感染

くしゃみなどで唾液などの飛沫が飛びそれが目・鼻・口の粘膜に直接入り起こる感染です。エアロゾルと違い飛沫は重いので長時間漂うことはないので、イメージとしては口から直接飛沫が飛んで侵入してくるというものになります。

3接触感染

ウイルスをふくむ飛沫を直接触ったり、ウイルスが付着したものを触った手指で、目・鼻・口の粘膜を触れることで起こる感染です。

感染経路を踏まえて感染対策を考えてみる

それぞれの感染対策について確認したところで、それぞれの感染経路についてどのように感染対策をする必要があるのかについて見ていきましょう。

1エアロゾル感染の対策

まずエアロゾル感染について。エアロゾルは人の口からなどから発生して長時間空気中を漂います。このエアロゾルが空気中をただよった空間に後から入ってエアロゾルを吸ってしまうと感染を起こします。

エアロゾル感染を防ぐためには口から発生したエアロゾルを含んだ空気からエアロゾルを取り除くことが必要となります。

もっとも簡便でコストのかからない対策は換気です。窓を2箇所開けて空気の通り道を作るのが効果的です。環境省の推奨としては窓の開放による換気は30分に1回以上数分程度窓を全開にすること・開放する窓は2方向で窓が1方向しかない場合にはドアをあけることという記載がなされています(https://www.env.go.jp/earth/zeb/ventilation/index.html

ここまでの記載をみて「いやいや、春や秋はそれでなんとかなるかもしれないけど、冷暖房が稼働している夏や冬に30分に1回窓をあけるのは・・・」と思われる方が多いかもしれません。そのような場合には空気清浄機や空気循環器などの対策を行うことが有効です。

ただし、単に空気清浄機であればなんでも良いというわけではなく、フィルターの性能がエアロゾルの除去に適合していることが重要です。HEPAの性能を持つフィルターが入っている空気清浄機は、JIS Z 8122 によって、定格風量で粒径が0.3 µmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもちます。このようなフィルターをもつ空気清浄機を用いれば空気中のエアロゾルを除去することができ、換気同様のエアロゾル除去効果があります。

空気循環器(サーキュレーター)も有効な対策です。発生した場所付近で止まったエアロゾルを空気を攪拌することで薄め、感染リスクを下げる効果があります。

外が過ごしやすい時期には電気代などのコストがかからず簡便に行うことのできる換気を活用し、換気を行いにくい冬や夏には空気清浄機を使うことで継続可能性の高い対策が可能ということになります。

2飛沫感染の対策

飛沫感染の対策について見ていきましょう。飛沫感染は人から飛んだ飛沫が直接人に当たることによるものです。明らかにくしゃみを吹きかけるようなものだけではなく会話などで出るほとんど目に見えないようなものも含まれます。この感染経路を防ぐためには、飛沫が人と人の間を飛び交うのを物理的に防ぐのが重要です。テーブルの距離を開けて人と人の間をあけることや、アクリル板を使ったり壁際の席を設けることで人と人が顔を付き合わせる状況を少なくするのが効果的です。

3接触感染の対策

接触感染の予防は手指の消毒の徹底が第一です。手指を洗い残しの内容に洗うよう心がけ、こまめに消毒を行いましょう。ものを触った手でそのまま粘膜を触らないことを徹底しましょう。何気なく顔などを触る癖のある人は多いので意識して目・鼻・口を触らないことが重要です。また人に対する消毒だけでなく、物に対する消毒も重要です。人がよく触る部分(ドアノブ、テーブルなど)をこまめに消毒しましょう。

実践した感染対策を評価することの重要性

ここまでウイルスの感染経路を確認し、COVID-19の感染対策を考えてきました。次は実践!となるわけですが、感染対策を実施したもののやり方が間違っていたり不十分であることで感染が防げないという例も少なくありません。

感染対策を実施するのと同じくらい感染対策が効果を示しているのかについて評価することも重要です。

coronavirus disease covid 2019 5060427 1280

1エアロゾル感染対策の評価

まず換気の評価ですが間取りを確認して2箇所の窓が空気の通り道を作るように空いているかを確認しましょう。また環境省の推奨する換気ができているかを確認してください。

換気扇を使う場合には換気扇の換気能力を竣工図などで確認して、人一人あたり30㎥の換気が維持できているかを確認しましょう。換気扇の寿命は、10年から15年ですので、点検して動作を確認することも重要です。常時CO2濃度を測定して1000ppm以下であることを確認することも有用です。

感染対策を進めていくにあたり、「空間のエアロゾル除去性能を測定する技術」が確立してきています。従来は換気の指標としてCO2濃度を測定していました。CO2濃度を評価する方法では、空気清浄機の性能が空間のエアロゾル除去にどれほど貢献しているか不明確でした。

また火を使わない小売店などの店舗と違い、飲食店ではカセットコンロを使用して客席で調理をしたり、灯油やガス式のストーブを使用することがあります。それにより、呼吸以外の要因でCO2濃度が上昇します。そのためCO2濃度が通常の空気と異なり、感染症対策の目安として使えないこともあるのです。

そこで人工エアロゾルを用いて、実際にどの程度エアロゾルを減らすことができたかを測定する方法が発達してきたのです。人工エアロゾルを使用した測定法を使用すれば、空気清浄機の空間に対する効果を評価することができて、非常に有用です。

エアロゾルは当然目には見えないので性能の低い空気清浄機を使っていると、対策しているのに部屋の中はウイルスだらけという状況になってしまいます。空気清浄機は配置場所によっても効果が異なります。

ウイルスという目に見えない敵を可視化する「エアロゾル除去性能測定器」を使用するとこのような最悪の状況を避けることができ、有効な対策ができます。

2飛沫感染対策の評価

飛沫感染は人と人が密になって間に遮るものがないと起こります。営業中に店内が密になっていないか、異なるグループ同士の間に遮蔽物が置かれているかを確認しましょう。

人が多すぎる場合や対面せざるを得ない状況になる場合は一度に入れる人の数をコントロールするなどの対策が必要になります。

3接触感染の対策

接触感染の評価は、消毒した手指や物がちゃんと綺麗になっているかの評価を行います。

手指消毒ができているか評価する方法として蛍光ローションを手に塗って手を洗うという方法があります。蛍光ローションは透明なのですが、ブラックライトを当てると光ります。手を洗った後にローションがどれだけ残っているかを確認して洗い残しがどこにどれだけあるかを確認します。その上で正しい手洗いを学びます。実は手というのは非常に複雑な形をしているので意識しないと洗い残しが非常に多くなります。そのことを知ることで対策も進みます。ものの消毒の評価はATP拭き取り法があります。ATPとは生き物を含む多くの有機物に含まれる物質です。ウイルスは、遺伝物質(DNAやRNA)がタンパク質の殻に納まっただけの存在で、ATPを含まないため、ATPふき取り検査ではウイルスを検出できません。ウイルスとは別に、微生物や唾液、鼻水、血液などの体液、その他の有機物質にはATPが含まれています。そのため、ATPが多く付着しているものは汚れていると判断できます。消毒した場所を綿棒で拭き取り機械にかけて綿棒に付着したATPの量を測定します。簡便で迅速に実施することができるので消毒の評価には非常に有用です。

まとめ

今回はウイルスの感染経路から感染症の対策を考えました。ウイルスという目に見えない敵を相手にするためにはどのように感染が広がるかを知ることが重要です。また対策を実践するのと同様に今行なっている感染対策を評価することも大切です。「エアロゾル除去性能測定器」やATP拭き取り方など新たな技術も発達しています。これらを活用して有効な感染症対策を進めていきましょう。

参考文献

印刷